カメラマン・森さんの話

写真には自信があった。それでも依頼が来なかった理由は、写真の外にあった

腕には自信があるのに、なぜか選ばれない。そんな思いを抱えている方は少なくありません。MEDIA ORCHESTRA がよく出会うそんな場面をもとにした、家族写真を撮るカメラマン、森さん(仮名)のストーリーです。

写真だけが並んだホームページ

森さんは、独立して四年目の出張カメラマンです。七五三やお宮参り、家族の記念日に、公園や自宅まで出かけて写真を撮っています。

ホームページには、自信のある写真がたくさん並んでいました。光の入り方も、表情のとらえ方も、同業の仲間からほめられるほどです。

それなのに、ここ一年ほど、問い合わせが目に見えて減っていました。

「写真のレベルなら、負けていないはずなんだけどな」

ある晩、森さんは試しに、お客さんの立場で検索してみることにしました。「家族写真 出張撮影 〇〇市」。

いちばん上に出てきたのは、AI がまとめた答えでした。「〇〇市で出張撮影を頼めるカメラマンには、次のような人がいます」。名前が挙がっていたのは三人。どの人も、森さんより写真の数は少なく、正直に言えば、写真そのものに驚くような違いは感じられませんでした。

ただ、その三人のページには、あるものがありました。言葉です。

「写真を見ても、どんな人かわからなかった」

違いが気になって、森さんは友人のひとりに自分のホームページを見てもらいました。小さな子どもが二人いる、ちょうどお客さんになりそうな友人です。

しばらく画面を眺めてから、友人は言いました。

「写真はすごくきれい。でも、正直に言うと、頼むのはちょっとこわいかも」

「こわい?」

「うちの子、人見知りだから。泣いちゃったらどうしよう、とか。当日どんな感じで進むのか、どんな人が来るのか、何もわからないから」

森さんは、はっとしました。

お客さんが知りたかったのは、写真の出来ばえだけではなかったのです。知らない人を家族の大切な日に呼ぶ不安。子どもがぐずったときのこと。当日の流れ。それに答える言葉が、森さんのページには一つもありませんでした。

検索の答えに名前が挙がっていたカメラマンたちは、そういうことを、自分の言葉で丁寧に書いていたのでした。

一年ぶりに届いた、一通のメッセージ

それから少しして、森さんのもとに一通のメッセージが届きました。三年前にお宮参りの写真を撮った家族の、お母さんからでした。

「先日、祖父が亡くなりました。お葬式で使った写真は、あの日、森さんが撮ってくださった一枚です」

赤ちゃんを抱いて、くしゃくしゃの笑顔で笑うおじいさんの写真でした。

「祖父は写真が大の苦手で、いつもむすっとしていました。あの日、森さんが祖父にずっと話しかけて、昔の仕事の話を聞いてくださったこと、家族みんな覚えています。あんなに笑っている祖父の写真は、あれしかありません。本当にありがとうございました」

森さんは、画面の前でしばらく動けませんでした。

あの日のことは、よく覚えています。緊張して固まっていたおじいさんに、ただ話しかけ続けただけでした。技術でも何でもない、と思っていたことです。

でも、この家族にとって大切だったのは、写真の明るさでも構図でもありませんでした。緊張した人の心をほどいて、その人らしい顔を残すこと。それこそが、森さんが四年間ずっと届けてきたものだったのです。

自分の仕事を、はじめて言葉にした

森さんは、ホームページに少しずつ文章を書き足していきました。

  • 撮影の前に、まず十五分ほど、ご家族とお話しする時間をとっていること
  • 子どもが泣いてしまっても、急がずに待つこと。泣き顔も大切な記録として残すこと
  • 写真が苦手な方ほど、自然な表情が撮れるように話しかけていること

写真を一枚ずつ選んでいたときよりも、ずっと時間がかかりました。当たり前だと思っていたことを、言葉に置きかえるのは思った以上に難しい作業でした。

それでも書き終えてみると、写真だけだったページが、急に「森さんという人」の顔をもったように見えました。

「人見知りの子でも大丈夫そうだったので」

数か月後、久しぶりに新しい問い合わせが届きました。

「検索したら、泣いてしまう子でも待ってくれるカメラマンさんだと書いてあって。うちの子、本当に人見知りなので、この方ならと思いました」

撮影の日、その子は最初こそお母さんの後ろに隠れていましたが、最後には森さんのカメラをのぞきこんで笑っていました。

問い合わせが急に何倍にもなったわけではありません。それでも、届いてほしい人に、自分の仕事がようやく届き始めた。森さんには、それがなによりうれしいことでした。

森さんが届けていたのは、写真だけではありませんでした。本人がそれに気づいたとき、はじめて言葉が生まれました。私たちは、そういう瞬間に立ち会えることを、いつもうれしく思っています。

当たり前にしてきたことほど、言葉にすると、届く人がいます。

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